よく噛むことと認知症予防
認知症とは、正常に発達した知能が脳の障害によって正常なレベル以下に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態のことを言います。認知症は、このような症状の総称ですので、けっして単一の疾患を指すものではありません。
そのため認知症の原因は様々であり、その治療法や予防法も様々です。例えば、脳の血管の障害である脳梗塞や脳出血あるいは悪性腫瘍などの脳外科的疾患によっておこる認知症の場合。この場合は脳外科的手術による治療が可能です。他にもウイルスや細菌による感染症、甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンなどの内分泌やビタミン欠乏などによる代謝の病気、あるいは薬やアルコール、金属などによる中毒性疾患などが原因の認知症の場合。この場合も同様に、各疾患の治療により認知症の治療や予防が可能です。
しかし、認知症の中には原因が不明なもの、あるいは現在の医療技術では治療ができないか不充分なものも少なくありません。
さて、「よく噛むことと認知症予防」というテーマですが、果たしてよく噛んで食べれば認知症が予防できるのか。結論から言えば少し違います。正確には、よく噛んで食べれば認知症が予防できると言うよりはむしろ、よく噛めない状態、つまり多くの歯が欠損したまま放置された状態が認知機能低下につながるといわれています。具体的には、①口腔内不潔つまり虫歯や歯周病の治療がなされていないことによる慢性炎症のある状態、あるいは②よく噛めないことによって栄養摂取や栄養状態が悪化している状態、③よく噛めないことによって脳への刺激が低下している状態。これらの原因によって認知機能が低下すると考えられています。
したがって、よく噛むことが認知症自体の予防になるわけではありませんが、少なくとも多くの歯が欠損したまま放置された状態、よく噛めない状態というのは、認知症のリスクが高い状態であると言えます。定期検診・早期受診により歯を失わないように努め、歯を失った場合も入れ歯などにより噛む力を回復することで、将来的な認知症の防止につながるよう心がけましょう。