周術期口腔機能管理とは
医科疾患治療時の合併症を予防、軽減し、それにより治療の完遂を助けること。
さらには患者のQOLを維持向上させることを目的に歯科が介入し適切な口腔管理を行うことです。
周術期口腔機能管理の対象疾患としてはがん手術、がん化学療法、がん放射線療法、心臓手術、臓器移植手術、緩和医療などが挙げられます。
どのようなことを行うのか
周術期口腔機能管理では口腔ケアはもちろんのこと、必要があれば抜歯や補綴治療(入れ歯や被せ物の治療)を含めた歯科治療も行います。
どのような合併症を予防するのか
手術や抗がん剤、放射線治療など全身の治療において色々な口腔由来の合併症が起こります。一部を例に挙げて紹介していきます。
心臓手術
心臓の手術、特に弁膜症と呼ばれる心疾患の術後には口腔由来の合併症として感染性心内膜炎があります。感染性心内膜炎とは血流に入った細菌が心臓弁に付着することで心障害を引き起こす疾患で発症した場合、致死率が高く非常に恐ろしい疾患です。
口腔内の細菌も感染の原因となるので術後の抜歯などの歯科治療や重度の歯周病は感染性心内膜炎のリスクがかなり高いものとなります。
そのため心臓の手術、特に弁膜症の手術の前には歯科医院で口腔内を診察し、歯周病や抜歯の必要な歯などは適切に処置を行い、口腔内の環境を整えておく必要があります。
また弁膜症の手術後などは感染性心内膜炎の予防を行なった上で歯科処置を行う必要がありますので心臓の手術を行なった方は歯科治療を受ける際に心臓の手術を受けたことを伝えることが重要です。また術後は特に口腔内の環境に気を遣う必要がありますので定期的に歯科医院に通院することも大切です。
放射線治療
頭頸部のがんに対する放射線治療には口腔領域にさまざまな有害事象が出現します。頻度として高いものとして口内炎や口腔内の乾燥、味覚異常が挙げられます。
また放射線治療の有害事象において重大なものとして放射線性顎骨壊死があります。
放射線性顎骨壊死とは放射線治療の高い放射線量を浴びたことにより顎の骨が腐ってしまうことをいいます。
放射線性顎骨壊死はほとんどの場合放射線治療後の抜歯や歯周病の悪化を契機として発症するため、放射線治療の前後の歯科治療および口腔管理がとても重要です。
まず放射線治療前に歯医者さんを受診しましょう。そこで歯周病の治療や予後不良の歯の抜歯を行います。そうすることで放射線性顎骨壊死のリスクを下げることができます。
そして放射線治療中は口腔内をできるだけ清潔に保つことも重要です。口腔内を清潔にすることで顎骨壊死や口内炎も予防できます。
放射線治療が終わったら定期的に歯医者さんに行きましょう。放射線治療後の抜歯や歯周病により顎骨壊死を引き起こすことがあります。放射線治療後は抜歯をしなくていいようにお口の定期的なメンテナンスを行うことが重要です。
顎骨壊死は発症すると治療が難しく、場合によっては手術を行い顎の骨を取らなくてはいけないこともあります。QOLを損なう可能性の高いものですので顎骨壊死を起こさないように予防するというのが最も重要です。そのためには歯科医院に定期的に通院することが必要なのです。
化学療法
抗がん剤などの化学療法にはさまざまな副作用があり、その中で口腔内に関しても多くの副作用が出現します。例を挙げると口内炎、歯周病などの悪化、口腔乾燥、味覚異常、口腔カンジダなどがあります。特に口内炎や歯周病などの悪化が原因で化学療法を中断しなければならないこともあるため、化学療法中は周術期口腔機能管理を継続的に行う必要があります。
化学療法による口腔内の副作用を予防するためには化学療法前から準備が必要です。
まず化学療法前に歯科医院を受診し、レントゲンを含めた口腔内の精査を行います。
そこで化学療法まで十分な時間がある場合には虫歯や歯周病の治療、予後不良な歯の抜歯など感染源となり得るところは全て除去します。化学療法まで時間がない場合は、予後不良な歯や、腫れたことがある歯や既に痛みがある歯などを中心に治療を行います。そこで重要なのが患者様自身でお口を清潔に保てるようにすることです。口腔内の環境を整えても日頃の歯磨きなどお口の清掃は自分自身で行わなければなりません。自分でしっかりと清掃を行えるように清掃指導を特に丁寧に行うことになります。
手術や化学療法、放射線治療などは人生においてとても大きな出来事です。治療を受けるためにも周術期口腔機能管理はとても重要になります。
篤志会の歯科医院(さこだ歯科、さこだ歯科ケアクリニック、キラメキテラス歯科)には口腔外科医および周術期口腔機能管理および急性期病院での歯科治療の経験のある歯科医師も在籍しております。全身疾患の持病がある方や手術を控えている方も歯科受診できますので不安な方はまずは相談だけでもいいので、当院に足を運んでみてはいかがでしょうか。